水素ボイラーはいつ普及するのか

工場の脱炭素の切り札とも見られている水素ボイラー等について見てみたいと思います。

貫流ボイラーは都市ガス、重重油、灯油等を燃料としていますがいずれも化石燃料のため今後は燃料の脱炭素化が必要になります。燃やすと水になる水素は脱炭素燃料の有力候補です。

水素調達の方法から

では水素ボイラーの現状はどうでしょうか。まず水素はどの様な形で利用されるのかと言うと主には以下3つになります。

  • 工場内で副生物として発生する水素を有効活用 
  • 外部から水素を調達して利用
  • 水素製造装置を用いてオンサイトで水素を製造・供給

やはり一番最初はすでに水素がある場所からと言うことで、ソーダ工場で副生ガスとして出る水素を利用したものを2017年に三浦工業が世に出した様です。

運転時CO2排出ゼロ、水素燃料の貫流蒸気ボイラをラインナップ  2017.1.23         『大阪ソーダグループ 岡山化成株式会社』様より初号機を受注https://www.miuraz.co.jp/news/newsrelease/2017/831.php

外部から水素を調達するモデルでは2023年7月に住友ゴム工業白河工場で福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)製水素の供給を受けた様です。

福島県白河工場で「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」製水素を活用 | 住友ゴム工業
住友ゴム工業の福島県白河工場で「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」製水素を活用です。

三浦工業も2023年1月に副生以外の水素を燃料とした高圧貫流ボイラーが初めて住友ゴム工業白河工場の生産ラインで実運用を開始したと発表しています。

「住友ゴム工業株式会社」様のタイヤ製造工程にてミウラの水素ボイラが稼動開始https://www.miuraz.co.jp/news/newsrelease/2023/1407.php

3つ目の水素製造装置を用いてオンサイトで水素を製造・供給モデルとしては2024年5月にやまなしモデルP2Gシステムを住友ゴム白河工場に導入すると言う発表がありました。

山梨県とグリーン水素による脱炭素化等に係る基本合意書を締結https://www.srigroup.co.jp/newsrelease/2024/sri/2024_043.html

三浦工業は来るべき水素時代に向けて着々と準備をしていると言えるかと思いますが、この7年での水素ボイラーの実績は数十台レベルの様です。毎年数千台単位で貫流ボイラーが販売される中、7年で数十台の実績ではまだまだ限定された市場と言ってよいかと思います。

まだ水素は早いのか

水素ボイラーの鍵を握るのはやはり水素をどの様に調達してくるかと言うことかと思います。製造工程の副生ガスとして出て来る水素を利用するのはシンプルで良いですが、苛性ソーダ、鉄鋼など対象となる産業は限られます。

水素製造装置を用いてオンサイトで水素を製造すると言うモデルでは、水電解装置でどれだけ安い電気を使えるかによりそうです。NEDOによると、水電解システムのエネルギー消費量は現状概ね 5 kWh/Nm3 程度で、電気代が 6 円/kWh 程度を上回るケースでは電気代だけで2030年の目標コスト 30 円/Nm3 を上回る、とのことです。AWEでの試算では水素製造コストが154円/kg、電気代が104円/kgなので電気代が全体コストに占める割合は68%になるので、目標コスト30円/Nm3の68%が電気代と仮定すると20円/m3、電力消費は 5 kWh/Nm3なので電気代は4円/kWhである必要があります。目標コスト20円/Nm3だと同様に計算すると2.7円/kWhとなります。国内でこの価格水準を満たそうとすると一般的な方法では難しく、何らかの工夫が必要になりそうです。

もちろん電気代だけでなく、水電解装置自体のコスト低減も必要です。NEDOによると2025年で1,050千円/Nm3/h (25万円/kW)、2030年で量産コスト272千円/Nm3/h(6.5万円/kW)を目標としている様ですが、簡単ではなさそうです。

NEDO水素・燃料電池成果報告会2024              https://www.nedo.go.jp/content/100980857.pdf

海外から水素を持ってくると言うモデルについてもINPEXが川崎重工と岩谷産業が出資し、液化水素の海上輸送を計画する日本水素エネルギーへの出資を見送った様です。日経によると水素の国内需要が停滞し、運搬コストも大きく投資効果が得られないと言う判断の様です。

液化水素の海上輸送、INPEXが出資見送り 需要停滞で  2024.12.29 日経電子版https://www.nikkei.com/nkd/company/article/?DisplayType=1&ba=1&ng=DGXZQOUC1154C0R11C24A2000000&scode=8088

川崎重工と岩谷産業は引き続き2031年度の商用化を目指して事業を継続する様ですが、まだまだ楽観視は出来ない状況です。

現状からは国内で水素を作るモデルも海外から液化して持ってくるモデルもハードルは低くないと言えるかと思います。

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