以前の24/7の記事でも少し取り上げましたが、東宝とJERAの24/7に向けた取り組みを見てみたいと思います。
東宝とJERAの取り組みは「次のゴジラをカーボンフリーで撮影し、世界にアピールしたい」というトップからの要望を受けて始まったものの様です。
・2021.12 : 両社は映画制作のゼロエミッション化に向けた覚書を締結
・2023.6.16 : 東宝の映画制作拠点である東宝スタジオでの消費電力についてCO2ゼロエミッションを 目指す取り組みに向け、基本契約を締結
・2024.11.29 JERAの水素発電による東宝スタジオへの電力供給開始

東宝スタジオでの24/7 カーボンフリー電力の取り組み
東宝スタジオはJERAが東京エリアに設置した太陽光発電所(合計出力1380kW)からと袖ケ浦火力発電所(千葉県袖ケ浦市)構内の設置した水素発電設備から電気の供給を受けている様です。JERA が収集した電力需要データや発電量予測をもとに、ヤンマーのエネルギーマネジメントシステムで水素発電の自動制御を行っている様です。
太陽光発電設備はJERAがウェストとの協業により開発したものかは分かりませんが、合計出力とあるため複数の設備からの電気であることが推測されます。
JERAとウエストHDの業務提携に関する最終合意について 2022.4
https://www.jera.co.jp/news/information/20220427_894
設備 | 供給者 | 仕様 |
水素発電機(ガスエンジン) | 2G社 | 320kW x 1 |
水素発電機(燃料電池) | ヤンマーエネルギーシステム | 35kW/基 x 2 |
水素受入供給設備(タンクローリー) | 3000NM3/台 x 4 |
日本初、水素専焼のゼロエミッション火力で発電した電力の商用利用 ーJERAの水素発電による東宝スタジオへの電力供給開始ー 2024/11/29
https://www.jera.co.jp/news/information/20241129_2071
水素発電設備はヤンマーエネルギーシステムが納入した様です。エア・ウォーター・グリーンデザインの袖ヶ浦工場で製造した産業用水素ガスの供給を受ける様です。当面は化石燃料からのグレー水素、2027年までにブルー水素、2030年までにグリーン水素を使うことを計画している様です。
東宝スタジオの電力需要と供給
東宝スタジオで年間に消費される電気は一般家庭でおよそ1500世帯分とのことですので仮に家庭での電力消費を300kW/月とすると東宝スタジオでは540万kWhの電気を消費していることになります。
太陽光発電が1380kWなので仮に138万kWh/年、発電しているとすると残りは402万kWhになります。ただ、発表では水素発電では100万kWh/年、供給するとあったり、水素発電と太陽光発電で東宝スタジオの6-7割の電気を賄うと言った記載があります。
水素発電で100万kWh/年の電気を供給するとすると太陽光発電からの供給を引いた302万kWhをどこからか調達する必要があります。また、水素発電と太陽光発電で6割の電気を賄うことにすると水素発電は186万kWh、その他が216万kWhになります。
電源 | 水素発電で100万kWh | 水素と太陽光で6-7割 |
太陽光発電 | 138万kWh | 138万kWh |
水素発電 | 100万kWh | 186万kWh (6割の場合) |
その他 | 302万kWh | 216万kWh |
計 | 540万kWh | 540万kWh |
東宝、撮影スタジオに水素由来の電気 JERAが供給 2024.11.29
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC18AA00Y4A111C2000000/
東宝スタジオへ「水素発電」で電力供給、東宝とJERA 2024.12
https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/news/00001/04646/?ST=msb
いずれにしても水素発電と太陽光発電だけでは東宝スタジオの電気を供給出来ず、どこからか供給する必要があります。JERAが再エネを供給するものと思われますが。
東宝スタジオが今、どの電気の供給を受けているかは以下から見ることが出来ます。
https://public-portal.jera-cross.com/?company=136d4237-a46a-b15c-2906-be68d11f788f&language=ja
コスト面
コスト面については、TOHOスタジオの島田社長が「経済面で実現可能であることが最も重要なポイントだとJERAさんに伝えました」とありますが、水素発電のコストは一般的に100円/kWhと言われているため、今回水素発電のコストをどこまで下げられたのか、最終的にコストアップ分を誰が負担しているのかが気になるところです。
また、水素発電機器はコジェネで熱の供給も可能なものかと思いますが、需要場所と離れているため電気のみの供給で、熱は捨てられているものと推測します。採算を良くするためには熱の活用も考える必要がありそうです。

東宝スタジオのカーボンフリー電力の紹介ページには、「電力価格の変更は2024年の請求分から随時適用されます」と出ています。カーボンフリー電力にすることにより、ユーザー側の電気代がどの程度変わったのか興味深いところです。

東宝、JERAの取り組みは日本の産業界での初めての24/7に向けた取り組みと言うことで今後に期待したいところですが、普及拡大にはコスト面の課題をどうクリアしていくのかと言う点を考えていく必要がありそうです。
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