電気ボイラーの可能性

熱の脱炭素において今後、重要性が増して行くと思われる電気ボイラーについて見てみたいと思います。

現状

三浦工業は2023年にME-200Aと言う新しい小型貫流電気ボイラーを2024年度から発売すると発表しました。それまで蒸気発生量149kg/hと言うME-100までのラインアップでしたが、ME-200Aにより、300kg/hまでカバー出来る様になりました。

【三浦工業株式会社】日本初の電気式小型貫流蒸気ボイラ「ME-200A」をラインアップに追加
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000164.000028191.html

再エネ100%メニューの電気を使っていればCO2の排出を抑えることが出来ますし、火気使用禁止エリアや排気筒を設置出来ない様な地下設備やビルの途中階等、これまで騒音で設置出来なかった場所に設置可能になるなど設置場所の選択肢が広がります。蒸気使用場所の近くに設置出来ることで放熱ロスを下げられますし、燃料設備や排気筒のメンテナンス費用も削減出来ると同社は言っています。

課題

一方で同社は課題も示しています。

  • 蒸気発生量が少ない
  • 電源設備の増強が必要となる場合がある
  • イニシャル・ランニングコストが高い

産業機械 2024.6 P.20-24
https://www.jsim.or.jp/pdf/publication/journal/a-1-55-01-00-00-20240620.pdf

(蒸気発生量が少ない) 2023年12月18日に「労働安全衛生規則及びボイラー及び圧力容器安全規則」が改正され、電力設備容量60kWを1m2とみなすことになり、192kWのME-200Aの伝熱面積は3.2m2となり、特別教育受講者以上でないと取り扱えなかったのが資格がない人でも扱える簡易ボイラーになったと言うメリットはあります。

貫流ボイラー https://www.jbanet.or.jp/examination/classification/boiler

日本電熱の電気ボイラーも最大のNK-150RRが96kWですが、以前の20kW基準だと伝熱面積が4.8m2と簡易ボイラーの範囲に収まっていました。60kWになったことで三浦工業と同様に各社はより大型の簡易電気ボイラーを出してくるかもしれません。

日本電熱株式会社 電気式貫流ボイラー 『エコフット』(蒸気発生)https://www.nichinetu.co.jp/industrial/industry12.php

改正前 : 電力設備容量20kWを1m2とみなしてその最大電力設備容量を換算した面積を求める。 改正後 : 電力設備容量60kWを1m2とみなしてその最大電力設備容量を換算した面積を求める。

「労働安全衛生規則及びボイラー及び圧力容器安全規則の一部を改正する省令案」の概要について(諮問)https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001206487.pdf

一方で10m2でも600kWなので伝熱面積10m2以下の場合、相当蒸発量は化石燃料ボイラが最大3,000 kg/hに対して、電気ボイラは最大 900 kg/h程度と1/3以下です。

電気ボイラーだけでは蒸気発生量が少ないため、三浦工業は化石燃料ボイラと組み合わせることを提案しています。ボイラ台数制御装置を入れてME-200A x 3基、ガスボイラー 

SQ-3000AS x 3基で動かすことを提案しています。再エネ電気が多い時は電気ボイラーを優先して稼働させ(ME-200A x 3基、SQ-3000AS x 1基)、再エネ電気が不足する時はガスボイラーを優先して稼働させるイメージを示しています(SQ-3000AS x 3基)。

産業機械  2024.6  P.20-24 https://www.jsim.or.jp/pdf/publication/journal/a-1-55-01-00-00-20240620.pdf

ただ、ME-200A x 3基、SQ-3000AS x 1基では300kg/h x 3 + 3000kg/h x 1 = 3900kg/h, SQ-3000AS x 3基では3000kg/h x 3 = 9000kg/hと作ることが出来る蒸気の量が異なるので安定して蒸気が必要になる場合は工夫が必要です。

(電源設備の増強が必要となる場合がある) ME-200Aの電気ヒーター容量は192kWで上記の様に3基使うとなると576kWの電気を使うことになります。更に化石燃料ボイラーと同等の蒸気を発生させる規模で設置するとなると電力設備の増強が必要になりそうです。

(イニシャル・ランニングコストが高い) 上記の通り電源設備の増強が必要になるとイニシャルコストが高くなります。

ランニングコストに影響するものとして今後注目すべきなのはカーボンプライシングのレベルです。CO2の排出削減が求められ、枠を超えてCO2を排出する場合はその分の費用を負担する必要が出て来ます。ガスによるCO2排出によりどれだけコストが上乗せされるのかによっては電気のメリットが出て来るかもしれません。

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