GHGプロトコル Scope2ガイダンス改定の動き

GHGプロトコル Scope2ガイダンスのパブリックコンサルテーションが行われていますのでこれについて見て行きたいと思います。

GHGプロトコル Scope2ガイダンス改定

GHGプロトコル Scope2ガイダンスは2015年に制定されたため10年振りの改定の動きになります。2022年に最初のサーベイがあり、Scope2には400件の意見が寄せられ、それらを元にワーキンググループ、ボードでの議論を経て今回のパブリックコンサルテーションが実施されています。

パブリックコンサルテーションの期間は10/20から12/19までで、それらの結果をベースに2026年中に2回目のパブリックコンサルテーションが行われ、2027年には最終版が制定される予定です。

GHG Protocol Public Consultation
https://ghgprotocol.org/ghg-protocol-public-consultations

主な論点

パブリックコンサルテーションによると論点項目は以下の通りです。

・ロケーション基準、マーケット基準の定義と目的
・ロケーション基準
・マーケット基準
・アワリーマッチング免除の閾値
・レガシー条項

例えばぱっと見ただけでも以下の様な注意すべき点があります。

(ロケーション基準)
以下よりロケーション基準では日本は10エリアになると思われます。

(DeepLによる翻訳です。この記事の他の部分も翻訳はDeepLによるものです)
広域同期グリッド/グリッド間接続(複数の同期グリッドで構成される国の場合
複数の同期グリッドで構成される国においては、国家排出係数を使用すべきではない。
この条件に該当する国を列挙した以下のリストは網羅的ではない可能性がある:米国、カナダ、中国、オーストラリア、日本、ニュージーランド、英国、インドネシア;本土国家から電力的に分離された島嶼部。

(マーケット基準)
アワリーマッチング
これまで年間で排出量を見ておけば良かったですが、いよいよ1時間単位で見て行くアワリーマッチングが提案されています。日本の非化石証書は時間の概念がないため今後どの様に時間の概念を取り込んでいくかが課題になります。

標準供給サービス(Standard Supply Service(SSS)
標準供給サービス(Standard Supply Service(SSS))として日本のFITが例として挙げられています。自然エネルギー財団の資料では一部のFIPもSSSに該当するとのことです。一部のFIPとは何を指しているのか、例えばプレミアムが発生するもののことを言っているか、は分かりませんでした。

SSSに当たるとFIT非化石証書を100%使えていたのが、例えば東電の系統でFITの割合が仮に20%だとすると20%までしか非化石証書を使うことが出来ないと言うことの様です。

今回はこれらの論点の中でも特に影響がありそうな以下につき見てみたいと思います。

・バウンダリーと供給可能性
・レガシー条項

バウンダリーと供給可能性

以下の通り発電所と需要地の場所については同一であることが求められています。

(翻訳)
需要がゾーン別価格体系を採用する電力市場に位置する企業は、当該市場の定義されたゾーン別価格境界を、電力が当該需要に供給可能とみなされる市場境界として使用しなければならない。本基準が適用される市場には以下が含まれる:

9.需要が他の国または地域に所在する企業は、当該国または地域の境界、または報告主体の需要が所在する広域同期系統の境界のうち、いずれか小さい方を、当該需要に対して電力が供給可能とみなされる市場境界として使用するものとする。

日本はこの9に該当し、10エリアが同一市場の単位とみなされる可能性があります。

上記の代替案としては以下2つあります。

(翻訳)
代替手法1:
隣接市場間の電力価格差を通じて過剰伝送容量を実証する属性との組み合わせ

需要が上記の市場境界のいずれかに位置する報告主体は、上記の市場境界のいずれかに需要が所在する報告主体は、発電地点と消費地点の両方で時間単位のノード別またはゾーン別ロケーショナル限界電力価格が公開されており、かつ当該報告主体が、請求対象時間において消費地点における平均価格が発電地点における平均価格の1.05倍未満であることを証明する場合、隣接し直接接続された市場に所在する施設からの電力引渡しを請求することができる。

代替手法2:
契約または市場手段と組み合わされた属性で、生成地点から消費地点までの物理的引渡しを実証するもの

報告主体は、発電地点から消費地点まで関連するエネルギー属性を付帯した電力を供給するために必要な送電容量を、当該報告主体またはそのエネルギー供給者に排他的に割り当てる権利の存在を証明する場合、相互接続された送電システムのいずれの地点から供給された電力の消費を主張することができる。これらの権利は、規制慣行、契約、または市場手段を通じて割り当てられ、電力が供給されるすべての市場の送電事業者によって認識されなければならない。主張を裏付けるために使用されるエネルギー属性追跡システム及び基準も、電力が供給される全ての市場において相互に互換性があり、認識されなければならない。電力及び属性の供給は、直接的な相殺となる逆取引が存在しない状態で、1時間ごと、またはそれ以上の頻度で実証されなければならない。

代替案1は発電と需要のエリアが異なる場合の市場価格の差が5%以内であれば良い、と言うものですが、この資料では5%以上の価格差がつく場合もそれなりにある様です。
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/LCA_CFP/ghgprotocolshiryou4.pdf

また、代替手法2についてはフィジカルPPAであればクリア出来そうですが、バーチャルの場合は難しそうです。

以上より、日本が仮に10エリアとしてみなされた場合、発電と需要地が異なるエリアとなるバーチャルPPAに影響が出て来そうです。

レガシー条項

Scope2の改定前に締結されたPPAはアワリーマッチングや同一市場要件等の対象外と言う案が出されています。一方で移行期間を設定してそれ以降はすべての契約は改定後の要件を満たすべきと言う代替案も出されています。

(翻訳)
7.1 提案変更の説明
スコープ2技術作業部会(TWG)の勧告およびISBの開発支援を受け、移行オプションとしてレガシー条項が検討されている。MBM要件の改訂案に関連し、本条項により組織は、既存契約に基づく契約上の手段(例:エネルギー属性証明書)を、提案されている時間単位対応要件や供給可能性要件を満たさない場合でも、スコープ2市場ベース会計において算入可能となる。目的は、適格なレガシー投資に対するスコープ2市場ベース手法報告の継続性を維持することである。レガシー条項の適否及びその設計案(適格基準(例:対象契約種別・日付)、消費データへのレガシー手段配分手法(全時間帯・関連地域への比例配分等)、契約延長・修正の取扱い、期限、開示要件等)について、ステークホルダーからのフィードバックを募集する。

気候関連財務リスク開示プログラムとの整合性を高める代替案として、定義された移行期間と区分開示を伴う単一の発効日が挙げられる。この潜在的な選択肢では、更新されたスコープ2品質基準は、定義された移行期間を経た発効日以降、全ての契約手段に適用される。移行期間は、企業が既存契約の変更を検討する時間を確保することを目的とする。この期間中、発効日以前に締結された契約は引き続き使用可能とし、それらの契約の影響を受けた結果は明確かつ個別に開示される。このアプローチは、報告組織が適応する時間を確保しつつ、企業間および期間間の比較可能性を高めることで、一般目的財務報告書の主要利用者(例:投資家、貸し手、その他の債権者)に対する意思決定に有用なMBM情報の提供を支援することを意図している。この選択肢の採用の妥当性、発効日と移行期間の長さ、移行措置の対象となる契約の範囲、具体的な開示方法について、ステークホルダーからのフィードバックを募集する。

協議期間終了後、GHGプロトコルはTWGと連携し、本移行ツールの提案をさらに具体化します。その後、草案は最終標準草案の一部としてISBに提出され承認を得ます。ISB承認後、GHGプロトコル運営委員会に対し改訂文書の承認が要請されます。

仮に改定前に締結されたPPAは今後も新しい要件の対象外と言うことであれば、改定までに
急いでPPAを締結する動きが出て来そうです。
一方で移行期間後はすべての契約が要件を満たす必要が出てくれば、改定前でも同一市場でのPPA締結の動きが強まりそうです。

Scope2改定の動きは我々にどの様な影響が出て来るかをよく見て行く必要がありそうです。11/25に自然エネルギー財団でセミナーがあるため状況をよく理解する機会となるかと思います。https://www.renewable-ei.org/activities/events/20251125.php

パブリックコンサルテーションに対しては日本が不利にならない様にしっかりコメントしていく必要があるかと思います。

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