系統の課題 : 出力抑制のリスク

再エネ調達で重要となる系統について考えて行きたいと思います。

系統接続

電力改革により、発電と小売は自由化されましたが、電気を運ぶ役割の系統は規制分野のまま残されています。

オフサイトPPAにしろ自己託送にしろ自分で系統設備に投資する自営線を作るのでなければ基本的には発電所を系統に接続して電気を送らなければ需要地で使うことが出来ません。この系統に接続すると言うのが大きな課題で従来は系統が空いてなければ系統が増強されるまで接続が出来ませんでした。工事次第で何年も掛かってしまう可能性がありましたが、ノンファーム接続と言う系統に空き容量がなくても接続出来ると言う仕組みが導入されたので、一定規模以上の電源については増強まで長期間待たされると言うことは少なくなりました。但し、このノンファーム接続は基幹系統とローカル系統の場合だけで大型ではない太陽光発電所が接続される配電系統にはまだ導入されていません。配電系統の混雑管理を行うための技術的ベースとなるDERフレキシビリティの実証やそれをベースにした分散エネルギー取引市場が導入されると状況は変わるかと思いますが、導入まではまだ時間が掛かりそうです。

DERフレキシビリティ, 分散エネルギー取引市場 : 次世代の分散型電力システムに関する検討会 2023.3.8 
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/jisedai_bunsan/pdf/006_05_00.pdf

産業分野の企業として系統について理解しておく必要があるのは出力抑制です。出力抑制は発電所が系統に電力を流すことを止められてしまうと言うもので、大きく言うと需給バランス制約によるものと系統制約によるものの2種類あります。

需給バランス制約による出力抑制

2018年から九州地域で発生しているのが需給バランス制約による出力抑制です。例えば九州では2024年の5月はほぼ毎日の様に出力抑制が起きました。電気の性質として需要と供給のバランスを常に取る必要がありますが、主に春と秋は天気が良く太陽光発電の発電が伸びて供給量が多くなるのに対し、エアコンを使うことが少ないので需要が少なくなり、需要と供給の差が大きくなります。こう言う場合にどの電源から出力を下げて行くかと言うルールとして優先給電ルールがあります。火力の出力を下げ、揚水発電を稼働させ、他の地域に電気を流す等の手を打ってもそれでもギャップが解消されない場合に太陽光、風力が止められます。

九州電力 再生可能エネルギー出力制御見通しhttps://www.kyuden.co.jp/td_power_usages/pc.html

優先給電ルール : なるほど グリッド 出力制御についてhttps://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/grid/08_syuturyokuseigyo.html

9/18の系統WGで示された2024年度の出力制御の見通しは以下です。

北海道東北中部北陸関西中国四国九州沖縄
出力制御率見通し0.04%2.1%0.4%1.0%1.7%3.8%4.0%6.2%0.1%
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/shin_energy/keito_wg/pdf/052_01_00.pdf

九州は全設備に直すと6.2%の予測ですが、これには10kW未満のそもそも抑制対象ではない発電所も分母に入れた数値なので、制御対象だけで見ると8.6%、更に細かく見て行くと旧ルールのオフラインが10%(1)、旧ルールオンラインが7.1%、無制限・無補償9.2%となっています。

(1)オンライン代理制御分の出力制御率(制御電力量)は、オフライン相当(8~9時間)の制御時間に換算した値で算出。

2024年度出力制御見通しについて 九州電力送配電https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/shin_energy/keito_wg/pdf/052_s02_08.pdf

原子力発電所の稼働状況もこの需要バランス制約起因の出力抑制への影響が少なくないと思います。現在停止している原発が稼働すると24時間一定量の電力を供給することになるので、供給量がその分、かさ上げされるからです。

2023年の系統WGで出力制御の長期見通しが示されました。北海道と東北で50%を超えているのはなかなかインパクトのある数値です。ただ、これは何も対策を取らなければこうなると言う試算で、蓄電池導入、火力の最低出力を30%、地域間連系線の増強等の対策を取ることにより、この数値は低減されるとのデータも同時に示されています(例、北海道1.0%、東北11.4%)。50%以上出力抑制を受けると言うのは年間で半分以上稼働出来ないと言うことなので事業としては破綻しています。そうしないためにも様々な対策が必要になります。

北海道東北東京中部北陸関西中国四国九州沖縄
出力制御率見込み54.8%54.9%3.5%3.9%2.7%5.3%14.2%2.8%30%0.08%
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/shin_energy/keito_wg/pdf/049_01_00.pdf

系統制約による出力抑制

基幹系統のノンファーム接続の受付が2021年1月から開始されたばかりということもあり、現状では需給バランス制約による出力抑制に比べると系統制約による出力抑制は今後しばらくはあまり多くは見込まれていません。2029年度で系統混雑が発生するのは基幹・ローカル系統の約60設備(総設備数の約0.5%と多くはありません。ただ、今後もノンファーム接続が増えてくためにこの数字は大きくなっていくものと思われますが、あくまで個々の系統でどうかと言うお話なので発電所や工場がつながる系統について個別に見て行く必要がありそうです。

広域系統整備委員会 2022年9月21日https://www.occto.or.jp/iinkai/kouikikeitouseibi/2022/files/seibi_63_02_01.pdf

需要家にとっての出力抑制

発電事業者から見たら出力抑制は収入減になるので大きな課題ですが、産業分野の企業の立場から見るとどうでしょうか。すでに頻繁に起こっている需給バランス制約からの出力抑制で考えてみたいと思います。PPAを結んでいる場合、出力抑制があると予定していた量の再エネを受けることが出来ずに、他の手段で電気を調達することになります。手当されるのが再エネであればいいですがそうでなければCO2を出す電気を使うことになります。

今後のPPAではFIP、Non-FIT電源を使うものになると思いますが、最近、FIT電源を先に出力制御すると言う案が出されています。これはFIT電源をFIP電源に移行させ、国民負担を低減するためにFIP移行のインセンティブとして考えられているものです。しばらくはFIT電源が圧倒的に多いためFIP電源が出力抑制される可能性がかなり小さくなるものと思われます。ただ、FIPに移行する電源が増えて行くとFITだけの制御量では不足し、結局FIP電源も抑制せざるを得なくなるのでこの優遇はあくまで期間限定と考えた方が良さそうです。

大量導入小委  2024.9.30 https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/069_01_00.pdf

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