コーポレートPPAでのオンサイト、オフサイトを見て来ましたが、これらは発電所からの電気を需要家が使う形ですが、発電所からの電気を需要家が使わない形もあります。それがバーチャルPPAです。発電事業者が新しく作る発電所の電気は市場等で売却して、需要家は環境価値だけを受け取るものです。
需要家が既存の電力小売り契約を変更せずに再エネを調達したい場合などに使われるものです。環境価値だけを調達する場合との違いはバーチャルPPAは新しく発電所が追加される、いわゆる追加性(additionality)の要件を満たすことが出来ます。既存の電力小売りを変更すると言う面倒なことはせずに、世の中に再エネ発電所を増やすことができ、環境価値も入手出来ると言う仕組みです。
発電事業者と需要家の間で固定価格を設定して、発電事業者が市場で発電した電気を売却した価格との差額を決済する形になります。市場価格が固定価格より低い場合は需要家がその差額を発電事業者に支払い、市場価格が固定価格よりも高い場合は発電事業者がその差額を需要家に支払う形になります。これによって発電事業者は一定の収入が約束されるのでファイナンスをつけることが出来る様になりますし、需要家も環境価値が入手出来ます。
留意点
ただこの差額だけをやり取りするのは差金決済に当たってデリバティブ取引に該当するかもしれないと言う懸念がありました。
2022年11月11日の再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォースで、経産省から商品先物取引法の適用はない、とのコメントが出たので懸念は解消されることになりました。
ご指摘のバーチャルPPAが店頭商品デリバティブ取引に該当するかの判断については、個別の契約毎にその内容を確認する必要がありますが、一般論として、差金決済について、当該契約上、少なくとも以下の項目が確認でき、全体として再エネ証書等の売買と判断することが可能であれば、商品先物取引法の適用はないと考えております。 ・取引の対象となる環境価値が実態のあるものである(自称エコポイント等ではない) ・発電事業者から需要家への環境価値の権利移転が確認できる |
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20221111/221111energy14.pdf
ただ、会計上の処理は複雑なので会計事務所などに相談することが必要です。
新たな電力購入形態、バーチャルPPAをめぐる会計論点 KPMG https://kpmg.com/jp/ja/home/insights/2024/01/accounting-ppa.html
価格感
バーチャルPPAの価格感についてはデジタルグリッド社が発電事業者と需要家をマッチングさせる プラットフォーム「RE Bridge」上でのデータを公開しているので参考になります。
第3回(2024.7-8)のデータ (マッチング12件、92MW(DC)) 発電家希望PPA 価格 平均値 14.9円/kWh 需要家希望PPA 価格平均値 14.4円/kWh 環境価値価格(1)平均値 1.5円/kWh
需要家は1.5円/kWhで環境価値を入手することになります。このプラットフォームに参加するためにはFIPが要件ではない様ですが、FIPプレミアムとあるのでFIP案件が中心かとも思われます。FIPの場合の非化石証書は高度化法義務達成市場で取引されますが、直近の市場(2024.8)では0.6円/kWhが約定価格でした。それよりは多く払う必要があるものの、20年間、平均1.5円/kWhで調達出来ると言うのは非化石証書の価格上昇を見込むと良い取引なのかもしれません。
(1)環境価値価格とは、[ストライクプライス+DGP 手数料-JEPX 売電単価-FIP プレミアム]によって算出される需要家支払単価を指し、契約期間 20 年間における平均価格
コーポレート PPA マッチングプラットフォーム「RE Bridge」第 3 回オークション結果https://www.digitalgrid.com/pdf/article240904.pdf