熱の脱炭素化
これまで工場等産業分野での電気の脱炭素について見て来ましたが、今回は熱の脱炭素についても見て行きたいと思います。電気の脱炭素化は再エネ電気の活用と言う道が見えていますが、熱の脱炭素化は電気ほどはっきりした道筋が出来ている訳ではないと思います。
熱の脱炭素化として考えられるのは以下かと思います。
・証書の活用 (Jクレジット、グリーン熱証書)
・脱炭素された熱の外部調達
・脱炭素されたエネルギーを調達し、熱を自社で作る。
熱の証書を活用
熱の証書としてグリーン熱証書があります。電気ではグリーン電力証書がありましたが、この熱版です。この元になる熱源としてバイオマス熱、太陽熱、雪氷エネルギーがありますが、これまでの発行の総計ではバイオマス熱(5,169,437,214MJ、99.6%)、太陽熱(21,276,413MJ、0.4%)、雪氷エネルギー(501,935MJ、0.001%)と太宗はバイオマス熱由来です。
グリーン熱証書 日本自然エネルギー株式会社 http://www.natural-e.co.jp/greenheat/index.html
グリーン熱証書発行実績一覧https://www.jqa.jp/service_list/environment/service/greenenergy/file/list_ops/heat_holders_202406.pdf
ソニーは2012年に国内最大規模となる年間133,333GJのグリーン熱証書の調達を計画するなど早くから熱分野の脱炭素化に取り組んでいた様です。ただ、日本全体で見ると熱設備の認定でバイオマス熱では2021-22年153MW、8件、2023年163MW、9件、グリーン熱量認証は2021年1.51億MJ、5件、2022年8.78億MJ、27件、2023年7.96億MJ, 20件と年々拡大しているとは言えない状況です。
熱由来のCO2をJクレジットでオフセットすると言う動きもあります。東京ガスエンジニアリングソリューションズは清原スマートエネルギーセンターからカルビーの3事業所に電気と蒸気・温水と言った熱を供給していますが、この熱由来のCO2をJクレジットでオフセットすることを行っている様です。清原スマートエネルギーセンターは都市ガスを燃料にガスコジェネと貫流ボイラーを動かして熱を供給しているのでこの都市ガス由来のCO2をオフセットしている様です。
清原工業団地のカルビー3事業所へ再生可能エネルギー由来のJクレジット導入 https://www.tokyo-gas.co.jp/news/press/20231019-02.html
清原スマートエネルギーセンター https://www.tokyogas-es.co.jp/case/factory/kiyohara.html
脱炭素されたエネルギーを調達し、熱を自社で作る
脱炭素されたエネルギーとして日本ゼオンはカーボンニュートラルLNGを北陸電力から購入し、高岡工場で使っている様です。森林保全・植林等で吸収されたCO2をベースにしたクレジットの様ですが、どこのクレジットかはわかりません。
日本ゼオン、カーボンニュートラルを目指したエネルギー転換を開始 2022.4.13
https://www.zeon.co.jp/news/assets/pdf/220413.pdf
カーボンニュートラル都市ガスを東京ガスが堺化学工業小名浜事業所に供給すると言う動きもあります。こちらはシェルの保有するCO2クレジットを使う様です。
工業用向け初となるカーボンニュートラル都市ガスの供給について 2020.3.30
https://www.tokyo-gas.co.jp/news/press/20200330-01.html
東京ガスは需要家とガス会社でカーボンオフセット都市ガスバイヤーズアライアンスを2021年3月に設立してカーボンオフセット都市ガスの普及拡大とその利用価値向上の実現を目指している様です。
カーボンオフセット都市ガスバイヤーズアライアンス
https://carbon-neutral-lng.jp/buyers-alliance/
これらの取り組みはいわゆるボランタリークレジットと言う民間のクレジットを使うものなので、RE100、温対法、省エネ法等の報告には使えません。あくまで自主的な取り組みと言うものです。中には低品質なクレジットがあったり、実態にそぐわず過大に創出されていたりと信頼性をめぐって色々と議論が出ています。今後、こう言ったボランタリークレジットが各種報告にどの様に取り込める様になるかは注視していく必要があります。
ボランタリークレジットの信頼性向上に向けた取組み 大和証券 2024.9.2
https://www.dir.co.jp/report/research/capital-mkt/esg/20240902_024591.pdf
eメタン
証書を活用するのではなく、燃料自体を脱炭素化する動きとしてeメタンがあります。水素とCO2からeメタンを合成すると言うものです。eメタンのメリットは既存のガス導管を使えると言うことです。東京ガスは2030年にガス供給の1%をeメタンに置き換えることを目標にしている様です。
国内外で進展するe-メタン製造・メタネーションの普及拡大に向けた挑戦◆米国で大規模プロジェクトを推進! https://www.tokyo-gas.co.jp/letter/2023/20230927.html
この取り組みについては水素が安価に大量に手に入れられるのかと言うことと、海外で水素やeメタンを製造し、日本に輸入するのであれば現在、日本が海外のエネルギーに依存している状況と変わらないという課題があります。エネルギー安全保障を考えるとカーボンニュートラルに向けては日本国内である程度エネルギーを賄える状況にすることもあわせて考えて行くべきではないかと思います。
この他に脱炭素された電気(再生可能エネルギー)を調達し、熱を自社で作ると言うことも考えられますが、これは別の機会に考えたいと思います。