第3回の長期脱炭素電源オークションではリチウムイオン電池以外の蓄電池か、LDESとされるのかは分かりませんが、LDESとしてすでに稼働実績があるレドックスフロー電池について見てみたいと思います。
レドックスフロー電池
レドックスフロー電池は2つのタンクの電解液を別々に循環させ、膜によってイオン交換を起こす電池でバナジウムを使うことが多いです。電極や電解液の劣化がほとんどなく長寿命で、発火性の材料を使っておらず、常温運転が可能なため安全性が高く、電解液のリユースも可能です。
リチウムイオン電池は時々燃えていますが、レドックスフロー電池は安全性が高いため屋内などへの設置が考えられます。
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また電解液のタンクを追加することで増強でき、長時間の充放電にも適しています。
一方でリチウムイオン電池に比べるとコストは高く、中国での例ですが、リチウムイオン 電池が0.8元(16.8円)/Whに対し、レドックスフロー電池は2~3元(42~63円)/Whの様です。
中国のレドックスフロー電池投資ブーム、昨年から一転今年は冷え込む 2024.10.22 https://36kr.jp/310979
住友電工
日本では住友電工がレドックスフロー電池を作っていて2024年9月時点で国内外で50MW、176MWhの導入実績がある様です。
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住友電工では1985年からレドックスフロー電池の開発をはじめ、2000年に実用化にこぎつけた様です。ただ、非常用電源として買った病院や工場で液漏れが起こり、修理に追われたり、コストが高く原料のバナジウムの不安定な市況もたたり赤字となり、2005年に事業撤退へ追い込まれた様です。
住友電工「レドックスフロー電池」に起死回生の好機、オンリー・ワン技術は開花するか 2023.3.29 https://newswitch.jp/p/36401
2009年に再参入して先ほど示した様に今では国内外で50MW、176MWhの導入実績まで拡大しています。一時撤退して再参入した点は日本ガイシのNAS電池が火災事故で一次生産を停止し、その後、復活したと言うことを思い起こさせます。電池は化学物質を扱うだけに開発が難しいと言うことかと思います。
電解液メーカー、LEシステム
日本にはレドックスフロー電池の電解液を提供する企業もあります(LEシステム)。LEシステム社によると1990年代に科学技術振興機構(JST)が「燃焼灰からのバナジウム抽出」「バナジウム電解液製造」「セルスタックを中心とした蓄電池システム」の3つのコア技術を開発。LEシステムは、将来的な定置型蓄電池の需要拡大を見込んで「燃焼灰からのバナジウム抽出」「バナジウム電解液製造」技術を引き継ぎ、2011年に設立された、とのことです。
同社には産業革新機構(INCJ)はじめ何社も投資していましたが、RS Technologiesが2023年12月、INCJから事業承継を受け連結子会社化しました。事業承継後、事業が進み、今年になってスペインの蓄電所向けに8.5MWh分の電解液 3.3億円を輸出しました。
中国の動き
ここ数年中国政府がレドックスフロー電池の開発・設置を支援してきた様です。

ただ、2023年のレドックスフロー電池技術関連の投資案件が15件だったのに対し、2024年は8月までで5件しかなく、急に冷え込んだ様です。
中国のレドックスフロー電池投資ブーム、昨年から一転今年は冷え込む 2024.10.22 https://36kr.jp/310979
一方でユニコーン企業の大連融科儲能技術発展(Dalian Rongke Energy Storage Technology Development)は昨年、中国で175MW/700MWhと言う世界最大のレドックスフロー電池を設置した様です。
Rongke Power completes grid-forming 175MW/700MWh vanadium flow battery in China, world’s largest 2024.12.6 https://www.energy-storage.news/rongke-power-completes-grid-forming-175mw-700mwh-vanadium-flow-battery-in-china-worlds-largest
今後圧倒的な設置容量が想定される中国企業がレドックスフロー電池の分野でも世界を席巻する時が来るかもしれません。
レドックスフロー電池は劣化がほとんどなく、発火性の材料を使っておらず、電解液のリサイクルも可能で長時間、電気を貯められるためリチウムイオン電池とはまた異なる用途に使われることが期待されます。
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