カーボンプライシングの導入
2023年にGX推進法が成立し、カーボンプライシングが導入されることになりました。排出量取引と化石燃料の輸入事業者等に課する化石燃料賦課金の2つです。それぞれ以下の様なスケジュールで導入されます。
2023年度 | 企業が自主的に設定する排出削減目標に向けた排出量取引(GX-ETS)を 実施 |
2026年度 | 排出量取引を本格稼働 |
2028年度 | 化石燃料賦課金 |
2033年度頃 | 発電部門について段階的な有償化(オークション)を導入 |
GX推進法
https://www.meti.go.jp/press/2022/02/20230210004/20230210004.html
GX推進法ではカーボンプライシングの導入と共に脱炭素化に向けた技術開発・設備投資等の支援を今後10年間で20兆円行うことになりました。化石燃料輸入事業者等への化石燃料賦課金と2033年度の発電事業者への有償化による特定事業者負担金によってこの20兆円を賄うことになります。
化石燃料賦課金は石油石炭税の2022年度税収(6600億円)の減収幅を超えない範囲で上限が設定される様です。また、特定事業者負担金も2032年度の再エネ賦課金の減少幅を超えない範囲で上限が設定される様です(2032年度の再エネ賦課金総額は分かりませんが、2022年度は約2.7兆円)。要は今のエネルギーコストの負担額を超えない様にカーボンプライシングが設定されている様です。
三菱総研によるとBAU(Business as usual、成り行き)シナリオだとGX-ETSは数千円/t-CO2、化石燃料賦課金は数百円、カーボンニュートラルシナリオだとGX-ETSは数万円、化石燃料賦課金は数千円~万円の様です。
GX推進法に基づく日本の炭素価格を見通す
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20231113.html
日本エネルギー経済研究所の試算では特定事業者負担金(GX-ETS)は2013年比90%減で2049年では19,078円/t-CO2、0.22円/kWh、70%減で2050年で12,400円、0.87円/kWhとなります。
20兆円の歳入を生むカーボンプライス
https://eneken.ieej.or.jp/data/11299.pdf
0.87円/kWhと言うレベル感だと電力単価が仮に10円/kWhとすると9%と言うことで無視出来る数値ではもちろんないですが、多大な影響を与えるかと言うとそこまでではない様に思えます。
製造業に与える影響
2024年11月22日のGX実現に向けたカーボンプライシング専門ワーキンググループで2026年度からの排出量取引の本格導入案が出て来ました。
・直接的な排出量10万トン以上の企業に毎年度、排出実績と等量の排出枠の償却を求める
300-400社程で排出量の60%をカバー
・償却義務を履行しない場合、調達不足量に応じた金銭の支払いを求める
・割当量は基本はベンチマーク方式(排出原単位の上位からベンチマークを設定)。ベンチ
マークの策定が困難な分野はグランドファザリング(基準年から毎年一定比率で削減)によ
る割当
GX実現に向けたカーボンプライシング専門ワーキンググループ 資料2
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/carbon_pricing_wg/dai4/siryou2.pdf
直接排出量のためGHGプロトコルで言えばスコープ1になります。産業分野で言うと熱の脱炭素を本格的に考えて行く必要があると言うことかと思います。
気になるのは割当量がどの様になるのかと取引価格がどの様になるかと言う点です。割当量は業種特性を考慮した基準を設定し、過度な負担を回避する観点から、以下の事項を勘案して決める様です
① 制度開始前の排出削減実績
② カーボンリーケージリスク
③ 足下で削減効果が発現しない研究開発投資の実施状況
④ 設備の新増設・廃止等
取引価格は上限、下限価格が決められる様ですが、具体的にはこれからの議論の様です。
Jクレジットは使える方向性の様なので排出量の取引価格次第ですが、Jクレジットへの需要が高まるのかもしれません。
いずれにせよ事業に色々な影響が出てくるため今後の動きを注視したいところです。
先行事例としてヨーロッパでは2005年にEU-ETSが導入され、20年近くの運用実績があります。これを参考により実効性ある制度として行きたいものです。