具体的に脱炭素に向けた取り組みを行うに当たってはまずは現状の把握が必要になります。脱炭素の取り組みはダイエットに例えられることもありますが、その例えで言うと身体測定を行うことに当たり、どれだけCO2を排出しているか、数値で把握する見える化を行うことと言えるかと思います。
温室効果ガス(GHG)の排出量を算定・報告するために定められた国際的な基準としてGHGプロトコルがあります。その中にサプライチェーンでの排出量の捉え方としてスコープ1,2,3と言う分類方法があります。
スコープ1は自社が直接排出するGHGと言う定義で、燃料の燃焼や、製品の製造などを通じて企業・組織が「直接排出」するものになります。
スコープ2は自社が間接排出するGHGと言う定義で、他社から供給された電気・熱・蒸気を使うことで、間接的に排出されるGHGになります。
スコープ3は原材料仕入れや販売後に排出されるGHGと言う定義で、自社から見てサプライチェーンの「上流」と「下流」から排出されるGHGになります。スコープ3は購入した製品・サービス、資本財から輸送、配送、従業員の出張等15のカテゴリーに分かれていて非常に幅広い範囲となっています。
スコープ1,2は自社に関わるもの、スコープ3は原則他社が関わるものと考えれば良いかと思います。
義務化の動き
サステナビリティ情報の開示については現在、金融庁の「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」で議論されていて、2025年3月から任意で開示、2027年3月期からプライムの時価総額3兆円以上の企業、2028年3月から時価総額1兆円以上の企業、2029年3月期から時価総額5000億円以上、全プライム企業への適用は時期未定と段階的に導入される方向性です。スタンダード、グロース及び非上場企業は対象外です。
「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」(第3回)2024.6.28 資料1 https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/sustainability_disclose_wg/shiryou/20240628/01.pdf
サステナビリティ開示の国内基準についてはサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が2024年3月に公開草案を発表していて、寄せられたコメントについても公表されています。この草案ではスコープ1,2,3の各数値と合計値が開示対象になっています。スコープ3については経過措置として初年度は任意となっています。
上場している大企業を中心に排出量の公表が今後進んで行くと言うことかと思います。
特設サイト サステナビリティ開示基準案 https://www.ssb-j.jp/jp/news_release/400713.html
サステナビリティ開示基準の公開草案に寄せられたコメント https://www.ssb-j.jp/jp/domestic_standards/exposure_draft/y2024/2024-0329/comment.html
企業例
義務化を待たずしてすでに公表している各企業の例を見てみると日本製鉄はスコープ1,2の数値が非常に大きい一方でスコープ3の数値がスコープ1よりも小さいのが特徴かと思います。三井化学、トヨタ共にスコープ3がスコープ1,2より大きいですが、トヨタはスコープ3の割合と数値が圧倒的に大きいです。スコープ3のカテゴリー11は販売した製品のの使用によるCO2排出量のため顧客が購入したガソリン車から排出されるCO2の量が多いと言うことかと思います。尚、スコープ1,2,3を足した量(44,469)と合計の数値(57,573)が異なっているのはどう言う理由かは分かりません。
(万CO2T)
日本製鉄 | 三井化学 | トヨタ | |
スコープ1 | 6340 | 355 | 237 |
2 | 1,191 | 96 | 287 |
3 | 1,658 | 1,081 | 43,945 |
計 | 9,189 | 1,532 | 57,573 |
三井化学レポート2023 https://jp.mitsuichemicals.com/content/dam/mitsuichemicals/sites/mci/documents/ir/ar/ar23_all_web_jp.pdf.coredownload.inline.pdf
トヨタ統合報告書2023 https://global.toyota/pages/global_toyota/ir/library/annual/2023_001_integrated_jp.pdf
Appleなどがそのサプライヤーに再エネ活用を求めるのはScope3の脱炭素化を考えてのことかと思います。これからはまずは自社でコントロールが出来る点としてスコープ1,2を考えて行きたいと思います。