今回はなぜ産業分野なのかと言う点について考えて行きたいと思います。
なぜ産業分野なのか
日本のCO2排出量を部門別で見ると産業352百万トン(34%)、運輸192百万トン(18.5%)、事務所等179百万トン(17.3%)、家庭158百万トン(15.3%)等と産業が34%と一番割合として大きくなっています。ですのでこの産業分野が脱炭素されないと日本にカーボンニュートラルは来ないと言っていいと思います。
産業分野では製造業が329百万トンと93%を占め、鉄鋼業134百万トン(40.8%)、化学工業56百万トン(16.9%)、機械製造業38百万トン(11.6%)、窯業・土石製品製造業26百万トン(8%)、食品飲料製造業19百万トン(5.7%)、パルプ・紙・紙加工品製造業18百万トン(5.5%)等となっています。
環境省 2022年度の温室効果ガス排出・吸収量(詳細)https://www.env.go.jp/content/000215754.pdf 環境省 産業部門におけるエネルギー起源CO2 https://www.env.go.jp/content/000234477.pdf
お客さんの視点から
産業分野の脱炭素を考えるに当たり、まずは産業分野のお客さんについて見て行きたいと思います。Appleは2030年までにサプライヤーが再エネ100%とすることを求めていた様ですが、日経GXによると要請から義務になった様です。
Appleの再エネ100%、要請から義務に 取引先規範を改定https://www.nikkei.com/prime/gx/article/DGXZQOGN290BU0Z20C24A5000000
AppleだけでなくGAFAMの他の企業でも同じ様な動きがあり、彼らに供給する場合は否応なく脱炭素を進めないと行けません。この場合は顧客の求めに応じると言うことなので、脱炭素分の価値を認めてくれるかどうかは分かりませんが、脱炭素していないと買ってくれないと言うことで脱炭素の取り組み自体によって不利になることはありません。
一方で難しいのが、脱炭素した製品に価値を見出してくれるか分からない分野です。排出量の約40%を占める鉄鋼業において2024.6.6の基本政策分科会でJFEホールディングスの北野社長の発表では「グリーン鋼材の価値が認められる市場(GX市場)は依然として未成熟であり、脱炭素プロセス転換の投資判断は困難」とあります。「1.環境価値の高いグリーン鋼材の需要形成に向けた、優先調達(公共調達など)や調達支援(CEV補助金)による需要喚起措置、2.サプライチェーンの中で、グリーン鋼材の普及を促す規制的措置」を政策課題として提案されています。
基本政策分科会 2024.6.6 https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2024/056/056_009.pdf
脱炭素鋼材を使った船、アンモニアプラント、物流倉庫などが出て来ていますが、まだまだ限定された動きかと思います。
多くの需要家が新しい製品、サービスを選ぶためには例えば以下の様な要件がないと難しいかと思います。
- これまでより安いか、せめて同等
- 付加価値がある
- 法律、顧客の要望等でそれしか選べない
これを実現するための方法としては例えば以下が考えられます。
- これまでより安いか、せめて同等→ カーボンプライシングにより、脱炭素製品が相対的に安価になる
- 付加価値がある→ 倉庫内でフォークリフトを使う場合、従来のエンジン式フォークリフトでは排ガスが課題でした。バッテリー式にすることでその課題は解決します。ただこれは脱炭素ではなく、電化による付加価値です。産業分野もまずは電化による付加価値創出と言う視点で考えてもいいかもしれません。
- 法律、顧客の要望等でそれしか選べない→GAFAMの様に脱炭素された形で作られたものしか受け付けない。脱炭素が公共調達の要件となる。
顧客が脱炭素製品だけを購入する様になるのを待つ、と言うのだけではなかなか進まないので脱炭素により、顧客に選ばれる製品にどのようにして行くかを今後考えて行きたいと思います。
コスト
次に技術開発に依存したコストと言う点から考えてみます。産業部門の燃料種別のCO2排出量を見ると電力39%、コークス類20.9%、石油製品13.6%、熱13.2%、石炭8.8%、天然ガス、都市ガス4.5%となっています。これは自家発電・産業用蒸気に伴う排出量を、燃料種ごとに配分したものです。
環境省 産業部門におけるエネルギー起源CO2 https://www.env.go.jp/content/000234477.pdf
代替の燃料の一つとして水素があり、今年5月に水素社会推進法が成立しました。この法律では天然ガスと水素との価格差を支援すると言う「価格差に着目した支援」と言う点が注目すべき点です。ただ支援対象は「供給事業者と利用事業者の双方が連名となった共同計画」でなければならず、水素に関心ある企業すべてが支援される訳ではありません。これにより、水素が一般的に利用される様になる価格レベルがいつ実現するのかまではまだ分かりません。
水素・アンモニア政策小委員会 2024.6.7 資料1 水素社会推進法についてhttps://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/suiso_seisaku/pdf/014_01_00.pdf
まだコスト低減は今後の技術開発等に依存している状況かと思います。
今ある技術の活用
では産業分野の脱炭素は今後の技術開発如何に掛かっているのかと言うとYesでもあり、Noでもあります。産業分野の最大の排出源である鉄鋼業の脱炭素は革新電炉や水素還元鉄の実現に掛かっている面があるかと思います。CO2排出削減が困難な産業、いわゆるHard-to-Abate産業においては各分野での技術ブレイクスルーが必要な面があります。
一方でそれ以外の分野では今ある技術や見えている技術により、可能である面が少なくないと思います。例えば今後、限界費用がゼロである太陽光発電、風力と言った再生可能エネルギーの導入が進むとこれらを活用して産業分野の脱炭素を推進することが可能となると思います。
ぜひこれから再エネを最大限活用した産業分野の脱炭素について一緒に考えて行ければと思います。