日本発の蓄電池であり、稼働数も多いLDESとしてNAS電池をみてみたいと思います。
NAS電池
NAS電池はナトリウム(Na)と硫黄(S)の化学反応によって充放電を繰り返す蓄電池で日本ガイシが世界で初めて実用化したものです。6時間と大容量なことが特徴です。セルが300度と高温なことも特徴の一つです。
日本ガイシでのNAS電池の歴史
1984年から東京電力と共同で、NAS電池用固体電解質の開発を開始し、2002年に事業化し、2003年から量産を開始しています。世界6ヵ国、174ヵ所、30万5000kWを設置していたところ、2011年に三菱マテリアルの筑波製作所に設置した 2MWのNAS電池が火災を起こしてしまいました。製造不良の電池が原因だった様です。既設の電池の稼働を止め、原因究明を行った結果、翌年に運転と製造を再開した様です。日本ガイシはNAS電池の運転停止に伴う賠償や対応策で2012年3月期に611億円の特別損失を計上することになり、大きな影響を受けました。
https://www.ngk.co.jp/product/nas-about.html NAS電池の課題と対策 https://www.khk-syoubou.or.jp/pdf/paper/r_11/11tyoukan2.pdf 夢かける電池の火災で示した父から継いだ柔軟性 日本ガイシ・大島卓会長https://dot.asahi.com/articles/-/199546?page=3
最近の状況
再エネの導入が進む中で大容量の蓄電池であることが評価され、導入例も増えて来ている様です。経産省の系統用蓄電システム・水電解装置導入支援事業では令和3年度の補正で東邦ガスの蓄電所11.4MW/69.6MWhでNAS電池が採用されています。令和4年度はサーラエナジーの蓄電所が同規模で採択され、NAS電池が採用されています。
東邦ガスの系統用蓄電池向けにNAS電池を受注 2022.8.19 https://www.ngk.co.jp/news/20220819_1.html サーラエナジーの蓄電所向けにNAS電池を受注 2023.7.7 https://www.ngk.co.jp/news/20230707_1.html
一方で脱炭素電源オークションでは少なくとも第1回では日本の蓄電池は落札出来なかった様なのでNAS電池も落札案件はないものと思われます。第2回では運転継続時間が6時間以上と言うカテゴリーができたことでNAS電池も俎上に乗る可能性が出て来ましたが、6時間枠の落札率23%と第1回よりも激戦となり、落札6件の中にNAS電池が入っているかは分かりません。
長期脱炭素電源オークション第1回約定結果 https://www.occto.or.jp/market-board/market/oshirase/2024/files/240426_longauction_youryouyakujokekka_kouhyou_besshi_ousatsu2023.pdf 長期脱炭素電源オークション第2回約定結果 https://www.occto.or.jp/market-board/market/oshirase/2025/files/250428_longauction_youryouyakujokekka_kouhyou_besshi_ousatsu2024.pdf
海外向けでは2019年にBASFとNAS電池の販売提携契約を締結しており、独占契約ではないものの販路の拡大が期待できます。
日本ガイシと BASF大容量電力貯蔵システム NAS 電池の販売提携契約を締結https://www.ngk.co.jp/news/2019/20190611_1.pdf
需要家併設蓄電池
需要家の立場では需要家に設置した定置型蓄電池を第三者が保有し、充放電機能を提供するビジネスモデルを日本ガイシ、リコー、大和エナジー・インフラが検討している点が興味深いです。日本ガイシとリコーが2023年に設立したNR-Power Labが、需要家に設置した定置型蓄電の充放電を担当し、今後、日本ガイシと大和エナジー・インフラの合弁会社が蓄電池を保有、リコーは電力の小売電気事業者としてサポートするスキームの様です。
ピークカットによる電力料金の削減、太陽光発電の自家消費率向上、電力市場を利用した裁定取引による収益、非常時に系統電力が停電した時のBCPなどを目的にしたものの様です。
NR-Power Lab https://www.nr-power-lab.jp 需要家併設の蓄電池で「第三者保有モデル」、事業性を検証へ 2024.6.17 https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/news/00001/04268/?ST=msb
需要家の立場としては蓄電池を第三者が設置し、自社にメリットがある使い方が行え、収益の一部も得られるのであれば興味深いスキームです。今後の検討に期待したいところです。
リチウムイオン電池も大容量のものが出て来ている中でNAS電池をどの様に差別化していき、特徴を出していくのか引き続き見て行きたいと思います。
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