ネガティブプライスの日本での導入可能性

日本では卸売市場の最小価格は0.01円/kWhでネガティブプライスは導入されていませんが、グローバルでは豪州、ドイツ始め導入されている国が少なくありません。今回はネガティブプライスについて見てみたいと思います。

豪州で増加するネガティブプライス

豪州のNEMではネガティブプライスの発生が2024年4Qで23.1%で前年よりも3.2%増加した様です。中でも南オーストラリアでは38%ものネガティブプライスが発生した様です。ネガティブプライスが発生している際の平均電力価格は-$41.3/MWhとのことです。1豪州ドルを100円とすると-4.13円/kWhと言うことで極端に低い価格がついている訳ではなさそうです。

以下記事によると大手のオフテイカーが余剰の太陽光をネガティブプライスの時に市場で売るとお金をつけて電気を引き取って貰うので損が出るとのことですが、余剰が出る様なPPA契約をしていると言うことでしょうか。発電所に蓄電池が併設されている際に両方をカバーするハイブリッドPPAを結べばその様なことは起きないと言っています。柔軟性がない太陽光だけのPPAは今後締結されなくなるかもしれないと言うことで、ネガティブプライスがPPAの内容にも影響を及ぼす可能性があります。

ネガティブプライスがPPAに影響を及ぼす可能性があるのは余剰を市場で売るからで、需要家が使える量だけ契約すれば影響はありません。

‘World-leader in negative prices’: Australia urged to turn renewable energy challenge into opportunity                          

https://www.energy-storage.news/world-leader-in-negative-prices-australia-urged-to-turn-renewable-energy-challenge-into-opportunity/                               

豪州での出力抑制

豪州でネガティブプライスの発生が増加していますが、出力抑制はどの程度発生しているのでしょうか。2024年4Qでは太陽光、風力合わせて6%程度でうち、太陽光が5%、風力が1%です。太陽光の抑制は増加しているのに対し、風力の抑制は減少しているとのことですが理由は分かりません。

豪州の出力抑制には系統運用者から課される抑制と経済的抑制の2種類あると言うのが興味深いです。経済的抑制と言うのはネガティブプライスの時に自分で発電を止めると言うもので2023年12月に太陽光では2.72%が経済的抑制で、1.8%が系統運用者から課される抑制で経済的抑制の方が大きくなっています。太陽光で発電を止めると言うのはバーチャルPPAだったり、PPAがなかったりで市場に投入しているものがあると言うことかと思います。
経済的抑制がなければ系統運用者から課される抑制がもっと大きくなったものと推測されます。またネガティブプライスがあるからと言って系統運用者から課される抑制がゼロになる訳ではないとも言えます。

AEMO Quarterly Energy Dynamics Q4 2024
https://aemo.com.au/-/media/files/major-publications/qed/2024/qed-q4-2024.pdf?la=en

The wind and solar regions hit hardest by network and economic curtailment
https://reneweconomy.com.au/the-wind-and-solar-regions-hit-hardest-by-network-and-economic-curtailment/

日本で導入した場合

ネガティブプライスを日本で導入した場合の需要家にとってのメリットとデメリットはどうでしょうか。

(メリット)
スポット市場に直接参加している企業であれば電気を買えばお金が貰えると言う意味でメリットがあります。また蓄電池を所有していれば更にお得になります。ただ、市場から調達している企業は多くはないと思われ、小売電気事業者から電気を調達している場合、市場連動型のメニューかどうかでメリットを享受出来るかが決まります。市場連動型メニューの場合であっても市場の価格変動を直接反映するのではなく、少しマイルドな計算式を当てはめている場合もあり、どこまでメリットを享受出来るかはメニュー次第です。

(デメリット)
デメリットとして考えられるのがバーチャルPPAを組んでいる場合です。発電事業者がスポット市場で電気を売却することにしていたら、発電事業者の採算が悪化します。蓄電池を併設していたらタイムシフトにより、むしろ収益性は上がるかもしれませんが。まだまだ蓄電池を併設している発電所は多くないので、ネガティブプライスの導入に当たってはある程度蓄電池が普及している時期まで待って貰った方が良さそうです。

FITの影響

FIT制度で買い取られた電気は卸売市場に0.01円/kWhで投入されます。どの程度の量が市場に投入されているか分かりませんでしたが、2023年度のFIT買取電力量は1,301億kWhでした。スポット市場の2023年度の取引量は2,615億kWhでした。単純にFIT買取電力量がスポット市場に投入されるとするとFIT買取電力量が占める割合は約50%になります。FIT買取電力量の内、特定卸供給などで小売電気事業者に引き取られることでスポット市場に投入されないものもあるかと思いますので、これはあくまで簡易的な計算にすぎません。ただ、FIT買取電力量がスポット市場での取引量の結構な割合を占めるであろうことは推測されます。FIT買取電力量がスポット市場の価格を下げる働きをしていると言ってよいかと思います。この傾向はFIT買取が続く限り継続するので、ネガティブプライスの導入を考える場合もこの様な市場の状況にあることは念頭に置く必要があるかと思います。

JEPX 2023年度事業報告書
https://www.jepx.jp/company/overview/pdf/BR2023.pdf

再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法 情報公表用ウェブサイト
https://www.fit-portal.go.jp/publicinfosummary

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