マッキンゼー社の資料にもLDES企業として名前が出ていたForm Energy社について見てみたいと思います。
Form Energy
https://formenergy.com/
定置用蓄電システム普及拡大検討会 2024.11.11
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/storage_system/pdf/2024_004_04_02.pdf
鉄空気電池とは
同社が2021年にステルスモードから脱した時は100時間も電気を貯められると言うそのインパクトが大きかったです。同社が提供するのは鉄空気電池と言うもので電気を貯める時は錆びた鉄から酸素が取り除かれ、電気を取り出す時は酸素を取り込み、錆びた鉄になると言う仕組みの様です。
価格は$20/kWhを目標にしているとのことで、リチウムイオン電池の価格が大幅に下落しても2024年は$115/kWhと言うのに比べると⅕以下の水準と安いのが特徴です。またリチウムイオン電池が燃えるリスクがあるのに対し、鉄空気電池はその心配がなく安全性に優れているのも特徴です。
Lithium-Ion Battery Pack Prices See Largest Drop Since 2017, Falling to $115 per Kilowatt-Hour: BloombergNEF https://about.bnef.com/blog/lithium-ion-battery-pack-prices-see-largest-drop-since-2017-falling-to-115-per-kilowatt-hour-bloombergnef
原理自体は1970年代からあった様ですが、重すぎて自動車に積むことが出来ず、下火になった様です。
同社は2017年にテスラの蓄電池に関わっていた現CEOのMateo Jaramillo氏とMIT教授のYet-Ming Chiang氏他によって設立され、MITのアクセラレータープログラムThe Engineから投資を受けた様です。 https://www.axion.zone/the-engine
今年はシリーズFとして$405Mの投資を受け、それを含めこれまで$1.2Bのお金を集めた様です。投資家としてはビルゲイツがお金を出しているブレイクスルーベンチャーズ、鉄鋼メーカーのアルセロール・ミタル、GEのエネルギー部門のGE Vernovaなど錚々たるメンバーがいます。
2025年にはミネソタで1.5 MW/150 MWhと言う規模でGreat River Energyによる商用運転が予定されている様です。これを見ると欧州の蓄電池メーカーのNorthVoltが米連邦破産法11条の適用を申請したこととの違いが分かります。NorthVoltは自動車向けの蓄電池の製造を目指していたのでFormEnergyとはターゲットが異なりますが、NorthVoltが技術的な課題を抱えていたことが明暗を分けた様に思います。
中国に勝てず破産した欧州のEV用電池企業ノースボルト トランプ2.0で世界に与える影響https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/7849162d6e857f6c9b129b29e76400b3d916aba1
技術の要、Yet-Ming Chiang氏
Form Energyのファウンダーの一人のYet-Ming Chiang氏はMITの材料工学の教授で蓄電池他の研究をしていてForm Energy以外のスタートアップの設立にも関わっている方です。蓄電池のA123システムズのファウンダーの一人ですが、米連邦破産法11条の適用を受け破綻し、中国系企業を経て蓄電システム部門はNECに買収されました。NECは最終的に同社をLG化学に譲渡した様ですが。
Meet the MIT professor who is a secret star of climate tech innovation https://www.ciphernews.com/articles/meet-the-mit-professor-who-is-a-secret-star-of-climate-tech-innovation
NECが中国企業から買収したエネルギー子会社、赤字続きでLG化学に譲渡https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2109/07/news055.html
Yet-Ming Chiang氏はA123システムズからスピンアウトした半固体電池の24M Technologiesにも関わっています。同社はCEOを太田直樹氏がされていて伊藤忠商事が出資、京セラが技術ライセンスを受けるなど日本とも縁があります。
24M Technologies https://24-m.com
次世代電池メーカー(24M Technologies, Inc.)の持分法適用会社化についてhttps://www.itochu.co.jp/ja/news/press/2021/210518.html
今後
Form EnergyはYet-Ming Chiang氏が技術面を見ているので商用機も問題なく稼働していくことでしょう。2017年に設立され、2025年にようやく最初の商業運転が見込まれると言うことはハード系のスタートアップが製品を完成させることに時間が掛かると言うことを改めて感じさせます。製品が出るまでの期間をどの様に資金を繋いで行くか、死の谷をどの様に超えて行くかが重要になると言うことでしょう。
今回の鉄空気電池は系統用の電池をターゲットにしているので需要家に置くのは当面は難しいものと思います。需要家で100時間の電池を持つ必要があるかと言うこともあるでしょう。ただ、鉄空気電池が小型化されていくと需要家での使い道も何か出て来るかもしれません。期待して今後の動きを見て行きたいと思います。
上記は12月に書いたのですが、公開する段になって日本政策投資銀行がForm Energy社に出資したと言うニュースが飛び込んで来ました。日本でもこれを契機にLDESが更に注目されて行くのではと感じました。
Form Energy, Inc.への出資について-長時間の充放電を可能とする鉄空気電池を開発・製造する米国スタートアップ企業への出資-https://www.dbj.jp/topics/dbj_news/2024/html/20250110_205047.html